音楽が降ってくる
机に向かって練り出したわけでもなく、それはただ突然降ってきた。
慣れない仕事で心がキュウキュウに押し詰められた時だった。
作ったのは昨年だが、こんなことを思い出していた。
・・・高校の入学式の日だった。
もう春だというのに大雪が降って、
みんな真新しい制服をびしょ濡れにしながら迎えたその日。
凛として凍りついた空気の中、
八部咲きのさくらは満開を迎えることなく散っていった。
もしもさくらに心があったなら、さぞかし無念だったことだろう。
それにしても「さくら」を歌った歌の多さ、さすがは日本の国花。
さくらというと思い出すのが、忠臣蔵でおなじみ、あの辞世の歌。
「風さそふ 花よりもなほ 我はまた 春の名残を いかにとかせん」
死に行く花のはかなさと無念、その後に吹き出す新芽。
そのたびに、さくらは山の色を変え、世界を変える。
小さい頃によく思った。
降りしきる雪を見続けていると、
雪が降りていくのではなく、自分が天へ昇っていくように見える。
そんなふうに飛んでみたいと思っていた。
もしこれが舞い散るさくらだったらもっとふんわりと飛べるだろう。
さくら色に包まれて。